'11 臨床歯科を語る会概要

全体会
「経過20年超症例を振り返る」    北川原健先生

担当:松井

 私たちが大切にしていることは治療よりメンテナンスです」の名言通り、経過観察の重要性は言うに及びません。それは自らが最大限おこなった治療の「経過と変化」から得られた情報が次の治療内容に役立ち、活かすことが出来るからに他なりません。
治療直後に起こる変化やトラブルはある程度予測がつきますが、長期経過となると治療内容における想定外の問題だけでなく、加齢や生活環境の変化、 長期がもたらす患者と術者との関係、 継続するためのモチベーションの維持 、患者の継承など多方面に渡る問題や状況に影響されることが考えられます。
昨年、北川原健先生が歯苦歯苦の第2段を上梓されました。よく補綴物は装着したときが一番美しいと言われますが、長期間メンテナンスされた歯肉歯周組織には燻し銀のような輝きが感じられます。 その臨床の確実性は、歯科治療により健康を維持されている患者さんの感謝の言葉や満面の笑顔がすべてを物語っているようです。このような長期間の関わりは、お互いの信頼関係の上に成り立っていることは言うまでもありません。
 開業40数年を経た北川原健先生が考えられている、 患者さんと長く関わる秘訣、 長期経過の意味するところ、長期経過から得られた情報を如何に活用するか、長期経過における患者と術者の変化、長期経過を継続するためのシステム、世代を超えた継承などについてお話を伺いたく「長期症例から学ぶ経過観察の重要性」というテーマで御講演をお願い致しました。


夜の部屋
車座の部屋(若手症例相談部屋)

担当:西原

 本年度も昨年に引き続き、前夜祭後に若手症例相談の「車座の部屋」を企画いたしました。昨年3箇所ではうるさいというご指摘を受けましたので、今回は相談役(コメンテーター)に須貝先生(火曜会)と藤関先生(救歯会)の2名お招きし、2箇所で3症例ずつ程度のディスカッションを考えております。 お二人とも長く、幅広い臨床経験をお持ちの先生方です。全体会および分科会で「ちょっと発言するのは…」とお思いの先生方は奮ってエントリーおよびご参加下さい。どんな相談症例でも結構です。


分科会
インプラントの失敗症例からの検討

担当:折笠、林

 2009年の臨床歯科を語る会分科会「力の強い症例にインプラントは有効か?」において、インプラントは力が強い症例にも有効ではあるが、そうでないケースよりはトラブルも多いことが示唆されました。
インプラントが失敗する原因として過大な力以外にも、インプラント体の強度、表面性状等の材料学的問題、患者側の骨質、欠損形態、プラークコントロール等の問題、術者側の手術レベル、選択した設計(インプラントの本数、長さ、太さ、位置等)等の問題が単独あるいは、いくつか相互的に作用して引き起こされることが考えられます。
また臨床歯科での取り組みの一つであるインプラント支台のパーシャルデンチャーにおいては、最低限のインプラントに有効性を見出していますが、至適な本数、長さ、太さ等はまだ明確ではなく、失敗症例、リカバリー症例からその示唆を得られる可能性もあるかと思います。
今回、補綴後のインプラントの失敗症例からその原因が何だったのかを検討し、またトラブル後リカバリーできた症例を考察することによってインプラントの適応症、至適な最低限のインプラント植立の条件等、検討できればと考えております。

担当:熊谷、野村

 欠損歯列においては、それ以上の欠損拡大や咬合崩壊が進まないように症例の状態を評価し、適切な時期に過不足のない処置を行うことが重要となる。欠損症例の中で特に難しい欠損形態としてすれちがい咬合が挙げられる。しかし実際の臨床で完全なすれちがい咬合症例に遭遇する機会は少なく、その1歩手前の症例で悩む場面が多いのではなかろうか。
すれちがい咬合の定義は「上下に歯が存在しながら咬合支持がない状態」とされており、宮地建夫先生はすれちがい咬合の具体的な定義として次の項目を挙げている。
  1. 咬合支持がないか極端に少ないこと・・・・咬合支持
  2. 上下顎ともに長い遊離端欠損があること・・受圧条件
  3. 遊離端欠損部に多数の対向歯があること・・加圧因子
また咬合支持数が4箇所以下になると咬合崩壊と同様な病態を示し、このとき歯数が10歯以上だと難症例となると述べられており、すれちがい1歩手前症例としては、この周辺の症例が当てはまると思われる。
このエリアの症例では積極的な咬合再建を試みても、補綴物や支台歯への負荷が大きく、予後に不安がつきまとうことが多い。しかし治療介入しない場合は、さらなる欠損の拡大、すれちがい咬合に近づく危険性が高くなり、最終的にはどのような選択をしても、何らかのリスクを覚悟しなければならない。このようなステージでは、何を優先的に考え、治療方針を立てるべきか、また行った処置が正しかったのか、迷いが生じやすい。
そこで、14歯前後から10歯残存症例(咬合三角第三エリア付近)のすれちがい1歩手前と考えられた症例の中で、簡単だったケース、難しかったケース、積極介入、ソフトランディングねらいの消極介入などの症例を集め、その診断、処置の根拠や経過を提示していただき、今後の欠損歯列の診断に役立てたいと考えている。

担当:西原、日高

 昨年度、臨床歯科30周年記念における全体会において自家歯牙移植をとりあげました。 インプラントと異なり生物学的特性を有する歯根膜を有する移植の良さを再認識された先 生も多かったのではないかと思います。また自家歯牙移植が加圧要素を減らして受圧条件 をよくすることによって、受圧・加圧のアンバランスを改善できることも大きなメリット になります。そこで本年度も自家歯牙移植を以下の3つのセクションに分け ディスカッションをしていきたいと思います。
  1. 私の自家歯牙移植への取り組み(若手対象)
    1. どのように術前診断を行い、術前準備を行ったか
    2. 移植の術式
    3. 術後の管理 処置
    を症例を通じ討論していきます。
  2. 自家歯牙移植の失敗から手技・適応症を再検討する
    術後10年以前に移植歯が抜歯に至った症例から、移植が失敗しないための術式 また 適応症について討論できればと思います。
  3. 欠損歯列への自家歯牙移植の応用
    欠損は1歯欠損から1歯残存まで幅広くその対応もさまざまです。さまざまな欠損のバリエーションから移植を選択した理由 移植の有効性 またその際の補綴設計について討論したいと思います。


全体会
歯根膜による歯周組織の再生
(担当:甲田)

   近年、歯科医療の現場においては、GTR、エムドゲイン、PRPなどの臨床応用が可能となり、いわゆる再生療法への期待は高まるばかりです。しかし一方で、特別な手段や材料を利用しなくても、生体の組織である歯根膜のもつ自然治癒力を引き出すことによって、歯周組織を再生することは可能です。
 そこでまず、従来法の歯周外科と再生療法の差、違いがあるかということを長い接合上皮性付着で長期安定症例の経過から再考してみたいと思います。それは長い上皮性付着が結合組織性付着になりうるかの検証につながるであると考えます。また、組織学的見地をもとにGTRやエムドゲインによる再生療法、さらに保存や再生が難しいと思われる歯牙や分岐部病変に対して再植やFGF-2による再生療法について症例を通して考えてみたいと思います。
 そして歯周疾患における歯根膜組織の再生療法への期待と必要性について検討し、必要な条件や症例経過を確認し臨床応用の一助となればと思います。