'10 新人発表事前抄録


Implantにより残存歯の保護を試みた一症例
One case that tried the protection of the survival tooth by Implant.
堺健太郎 (包括歯科医療研究会所属 H15年卒)

【要旨】
遊離端欠損を有し、力の関与を疑わせる所見のある症例に対して、最小限の介入で最大の効果を得るためには、何を考え、どのように対応していけばよいのかということを、模索しながら処置を進めていった症例です。その中で今回は、片側処理の遊離端義歯を使用していた、下顎左側の67遊離端欠損部、その前方の5番にどのような力が加わっているのか、この5番を守るためにはどのような対応が必要かということに対して、自分なりに考えたこと、苦慮したところに焦点を絞って発表させていただきたいと思います。

【結論】
今回、下顎の遊離端欠損に対し、インプラントを用いることで、前方の残存歯の負担軽減を試みました。しかし、インプラントの埴立によって、その負担が軽減できている部分と、そうでない部分、場合によっては、逆に負担の増加を招いてしまっている場面もあるかと思われます。自分としては、現象や既往から、力の加わり方を推測し、対応にあたったつもりですが、実際に今回の処置によって、守りたい歯を守ることができるのか、あるいは他の部位に問題が生じることがあるのか、確信に至らない点もあります。そのため、今後の経過観察の中で、口腔内の変化に注意をし、適切と思われる対応をしていくことが重要であると考えています。
キーワード:【義歯の回転沈下】【咀嚼中心】【力の分散】


欠損歯列改変に悩んだ少数歯残存症例
A case could not decide to modify of dental arch defect on remaining ten teeth
苅谷 憲明(救歯会・卒後9年)

【患者概要】
患者: 65歳 女性
初診:2007年3月
主訴:右上がとれた、噛み合わせが悪い
職業:主婦(自営業の手伝い)
既往歴:高血圧 (降圧剤服用中)
歯式:
初診時  術前:アイヒナーB4 (10歯)


術後  術後:アイナヒーB3 (10歯)


【要旨】
 患者は65歳の女性。残存歯のすべてが失活歯で、しかも修復されていて歯頸部からの2次カリエスになっていました。カリエスリスクが高いと思います。
歯肉の腫脹と発赤がありますが、歯槽骨の吸収は少ないようです。
右上7番は保存不可能と診断し、抜歯しました。ただ一カ所の咬合支持のある左下1番は残根になっていましたから、咬合高径が低下し、義歯を入れないと咬合位が定まらない状況でした。
 少数歯残存症例では、すれ違い咬合の状況を呈していても、それほど大きな問題を生じず比較的穏やかな経過をたどる見解が一般的です。しかしながら本症例では義歯による圧痕が著しい為、これを改善することと咬合位を安定させることを考えました。
そこで、受圧条件の改善と、できれば咬合支持を獲得する目論見で自家歯牙移植を行うことにしました。
 左上6番の口蓋根を右上5番相当部に、左上2番を左下6番相当部へ自家歯牙移植を行いました。これにより右上の受圧条件の改善、左側6番部位での咬合支持獲得ができました。
 少数歯残存症例に自家歯牙移植を行ってまで欠損歯列の改変が必要かどうか、自家歯牙移植を行うにあたっても機能歯をドナーとして使うことが許容できるものなのかどうか、ずいぶんと悩みました。皆様のご助言ご指導いただきたくお願い申し上げます。

【結論】
  1. カリエスリスクが高いと判断したので、欠損歯列の問題以前に甘味制限などの食事指導とプラークコントロールの定着、またモチベーションの維持に力を注ぎました。
  2. 義歯による圧痕が著しいので、少数歯残存でありながら受圧・加圧条件を配慮しなければならないと考え自家歯牙移植を行いました。
  3. 咬合位が定まらない症例なので、咬合支持の獲得に自家歯牙移植を行いました。
    その上で治療用義歯を用いて咬合位の回復と安定を図りました。
キーワード:【欠損歯列の改変】【少数歯残存】【自家歯牙移植】 



テレスコープで対応した重度歯周炎症例
A Case report of sever periodontitis using telescope denture
猪狩 寛晶(火曜会 1996年卒・卒後14年)

【患者概要】
患者: 50歳 女性 (職業:主婦)
初診:2005年11月
主訴:右上の歯がぐらぐらする
歯式:Eichner B2  残存歯数18歯
【要旨】
 患者は50歳女性で右上3の動揺を主訴に来院されました。口腔内の状態は歯周病の罹患度が高く、ホープレスの歯や分岐部、垂直性の骨欠損を抱えた予後不安な歯が認められました。右上4は支持組織量が少なく大きく遠心傾斜しているものの、右側の咬合支持を担っており、これを保存しながら仮義歯を装着し、歯牙を順次取り込みテレスコープタイプへと改変し初期治療を進めていきました。
 初期治療中は予後不安な歯牙を含めて保存に取り組み、再評価後に支台歯としての保存可否を判断していきました。 そして治療を通じて仮義歯の二次固定効果などにより、歯周組織に改善が得られました。その後上顎に対してプロビジョナルを装着し、経過観察後、上下顎共にテレスコープ義歯を装着しました。
 現在、補綴処置後2年が経過しております。この症例に対する対応、補綴設計等、先生方にご意見、御指導をいただきたいと思います。宜しくお願い致します。

【結論】
  1. テレスコープによる二次固定効果や高い清掃性により、歯周組織に改善が認められました。
  2. 咬合支持を担っていた予後不安な歯牙が治療を進める上でのKeytoohとなりました。
  3. 残存歯保護を目的に用いたインプラントは、受圧条件・加圧因子を考慮すると活用に反省が残りました。

キーワード:【重度歯周炎】【咬合支持】【二次固定効果】 


麻痺患者の床縁形態を模索した一症例
A Case Report of Denture Form for the Patient with Unilateral Paralysis
太田 康作 (NDの会・1995年卒)

【患者概要】
患者: 69歳 女性
初診:2004年3月8日
主訴:義歯がゆるくなってきた、食べ物が残る
既往歴:3年前に脳梗塞。右側に麻痺が残る、会話は問題ないがやや返答が遅れることあり、
    口腔周囲も右は感覚障害あり
歯式:

【要旨】
 脳梗塞の後遺症で右側に麻痺があり、医院にも車椅子で来院される患者さんでした。
上顎の義歯は右上7番を支点に回転沈下がひどく、下顎の義歯は安定が悪く、鈎歯にも負担をかけていたので、上下とも義歯を新製する事としました。
右上7は深い根面カリエス、左下3は下顎義歯の鈎歯であり、義歯に揺さぶられていたためか動揺がひどく抜歯になりました。他の残存歯も長期的に保存は難しい状況でしたが、患者さんとの相談の上今回は保存し治療を進めて行く事としました。
咬合の安定を図るためフラットテーブルを用いた治療用義歯を数ヶ月使用し、義歯の安定が得られたので最終義歯に移行しようとしたところ、患者さんが麻痺側の顔貌に不満を持っていることがわかりました。そこで、麻痺側の上顎義歯床縁の形態を意図的にボリュームアップさせることで顔貌の非対称を改善できないか試行錯誤をしました。
義歯を使い、頬の張り、口唇・口角の状態等を変化させることで患者さんの満足感が得られました。その後若干ではありますが麻痺側の感覚の改善が図られ、主訴のひとつである食渣の残留を軽減する事ができました。また、患者さんのリハビリの効果もあってか全身状態も少しずつ改善されたとの事でした。

【結論】
  • 麻痺のある患者さんでも義歯の動きを最小限に抑えるために咬合の安定が重要であると考えられます。
  • 麻痺側の義歯床縁の形態を患者さんの状態にあわせ適切な刺激が加わるよう変化させる事により口腔周囲筋を賦活化する可能性があると思われます。

キーワード:【麻痺】【床外形】【口腔周囲筋の賦活化】 


高度顎堤吸収とフラビーガムを伴う無歯顎の一症例
A case of complete denture with advanced ridge absorption and flabby gum
山崎史晃 (富山劔の会・卒後15年)

【要旨】
当院では、総義歯を作ってほしいという患者さんが、年々増えてきている。それに伴って、顎堤吸収が激しく難しいケースも多く経験する。今回は、その中でも、特に難しいと思われた患者さんにBPS(生体機能的補綴システム)により義歯を製作したケースを提示する。ご意見、ご批判を頂きたい。

患者:88歳 女性
主訴:入れ歯が外れて食事がしにくい、おかゆと刻みのおかずを食べている

所見:上顎にはフラビーガム、下顎はひも状の顎堤を呈している
咬合時、下顎を大きく前方に動かして噛む
咬合力集中域を後方に移動させることに注意し、 BPSに阿部二郎氏の下顎吸着理論を応用して義歯を作製した。

【結論】
今回のケースでは、BPS義歯を応用し良好な結果を得ることができた。


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